チリ代表(ロス・コンドレス)2026 完全ガイド — 食肉業者と土木エンジニアがいる代表チーム
チリ代表の2026年ワールドカップ・ネーションズカップに招集された37人のうち、1人は食肉事業を経営しています。別の1人は大学で土木工学を専攻する学生です。かつての代表には、大会の合間に病院でインターンをしていた医師もいました。
そのチリが、いま世界16位。国の歴史上、最も高い順位です。そして2027年オーストラリア大会で、ニュージーランドやオーストラリアと同じプールに入りました。
食肉業者やエンジニアがいるチームが、どうやってここまで来たのか。これは南米ラグビーの静かな革命の物語です。
基本データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 愛称 | ロス・コンドレス(Los Cóndores=禿鷹たち) |
| 世界ランキング | 16位・66.94ポイント(2026年7月20日時点/史上最高位) |
| RWC2027 | 出場権獲得済み(2025年9月27日、サモアとのプレーオフを制す) |
| プール | プールA(ニュージーランド・オーストラリア・香港チャイナと同組) |
| ヘッドコーチ | パブロ・レモイネ(ウルグアイ人) |
| 主将 | マルティン・シグレン(BR) |
| W杯出場 | 2大会連続2回目 |
2027年への切符 — サモアを倒して
チリのRWC2027出場は、劇的な形で決まりました。
予選ルートは南米2位×太平洋4位のプレーオフ、相手はサモアです。
- 第1戦(2025年9月20日、ソルトレイクシティ):サモア 32-32 チリ(引き分け)
- 第2戦(2025年9月27日、ビーニャ・デル・マル):チリ 31-12 サモア
ホームでの第2戦を制し、チリは24チーム中23番目の出場国として、W杯行きを確定させました。米州からはアルゼンチン、ウルグアイ、カナダ、アメリカに次ぐ5番目です。
RWC2027ではプールAでニュージーランド、オーストラリア、香港チャイナと同組。オールブラックスと開催国という、この上なく厳しい組み合わせになりました。
RWC2023 — 初出場、4戦全敗、でも歴史的
チリの初のワールドカップは2023年フランス大会でした。プールDの4試合はこうです。
| 日付 | 対戦相手 | 結果 | 会場 |
|---|---|---|---|
| 9月10日 | 日本 | 12-42 ● | トゥールーズ |
| 9月16日 | サモア | 10-43 ● | ボルドー |
| 9月23日 | イングランド | 0-71 ● | リール |
| 9月30日 | アルゼンチン | 5-59 ● | ナント |
4戦全敗、得点27・失点215。数字だけ見れば完敗です。しかし、史上初のワールドカップ出場を果たしたこと自体が、チリラグビーにとっては巨大な達成でした。初出場権は2022年7月、アメリカ大陸プレーオフでアメリカを破って手にしています。
なお日本との対戦は、この2023年9月10日の1試合のみ。日本が6トライを挙げて42-12で勝ちました。
「本業を持つ代表選手」たち
チリ代表の最大の特徴は、プロ化が途上であることです。多くの選手が、ラグビー以外の本業や学業を抱えています。以下は現地報道で確認できたものです。
- マティアス・ディトゥス(PR、33歳)— 食肉事業「La Bodega del Tongua」を経営。プレミアムカットとマガジャネス産のチョップを扱う。現在はフランス・アノネー所属
- アウグスト・ボーメ(HO、30歳)— アンドレス・ベジョ大学の体育学部に奨学生として在籍。U17代表のコーチも兼任
- サンティアゴ・ペドレロ(LO、24歳)— カトリカ大学工学部で土木工学を専攻
- ハビエル・アイスマン(LO、29歳/身長201cm)— 同じくカトリカ大学工学部
- ライムンド・マルティネス(BR、25歳)— 同工学部
- マルセロ・トレアルバ(SH、31歳)— 商業工学(Ingeniería Comercial)の学位を持つ
かつての代表には、チリ大学卒の医師でバロス・ルコ病院に勤めたフランシスコ・ウロス(元FB)や、料理人として飲食店運営に携わったエステバン・イノストロサ(元代表)もいました。
※職業・学業の情報は、現地紙 La Tercera(2021年10月31日)およびカトリカ大学工学部の記事(2022年7月21日)で報じられた時点のものです。
大学の工学部でチームメイトが机を並べ、週末は代表として世界と戦う。これがチリ代表の日常です。
注目選手 — 海外組はわずか5人
一方で、海外のプロクラブでプレーする選手も出てきました。数字は2026年7月22日時点(all.rugby)。
| 選手 | カタカナ | Pos | 所属クラブ | 年齢 | キャップ |
|---|---|---|---|---|---|
| Diego Escobar | ディエゴ・エスコバル | HO | ラシン92(仏トップ14) | 26 | 59 |
| Santiago Videla | サンティアゴ・ビデラ | CE/FH | シカゴ・ハウンズ(米MLR) | 28 | 37/通算216点 |
| Javier Eissmann | ハビエル・アイスマン | LO | アジャン(仏プロD2) | 29 | 36 |
| Iñaki Ayarza | イニャキ・アヤルサ | CE | ヴァンヌ(仏) | 26 | 28 |
| Martín Sigren | マルティン・シグレン(主将) | BR | ニューイングランド・フリージャックス(米MLR) | 30 | 27 |
| Matías Dittus | マティアス・ディトゥス | PR | アノネー(仏ナショナル) | 33 | 27 |
- エスコバル(59キャップ) — フランス・トップ14の名門ラシン92所属。チリ代表で最多クラスのキャップを持つフッカー
- ビデラ — CTB・FH・FB・WGをこなす万能バック。代表通算216得点はチリ歴代最多。MLRのシカゴ・ハウンズ所属
- シグレン(主将) — アメリカMLRのフリージャックス。かつてはイングランドのドンカスター・ナイツでもプレー
37人の招集メンバーのうち、海外組はこの5人だけ。残る32人は国内のセルクナム所属です。
セルクナム — 「代表になるための道」
チリラグビーの心臓が、**セルクナム(Selknam)**です。
セルクナムは2019年11月に設立された、チリ唯一のプロチーム。World Rugbyの資金支援を受けた南米プロ化プロジェクトの一員で、スーパーラグビー・アメリカに参戦しています。代表の大半がここに所属しており、事実上の「代表専任集団」です。
スーパーラグビー・アメリカ2026は8フランチャイズに拡大(アルゼンチンのリトラルが新規参入)。セルクナムは第9節終了時点で4位・勝点27と、準決勝進出圏内につけています。
育成面では、サンティアゴ、アントファガスタ、ビーニャ・デル・マル、コンセプシオンの4カ所に高性能センターを整備。「セルクナムはコンドルになるための道」——選手たちはそう語ります。国内で有望な選手を集約し、プロとして鍛え、代表に送り込む。この一本道が、チリを世界16位まで押し上げました。
協会の台所事情
強化を支える資金はどうなっているのか。
2026年のチリ国家予算で、ラグビーには約33億4,200万チリペソが配分されました(スポーツ省予算、上院承認)。内訳は、World RugbyチャレンジャーカップU20関連に約9億7,099万ペソ、ラグビー開発・高性能センター建設に約23億7,100万ペソです。
ただし逆風もあります。World Rugbyが南米への配分を14%削減し、スーパーラグビー・アメリカは緊縮を迫られていると2025年9月に報じられました。代表の海外組がわずか5人でセルクナムに大きく依存する構造は、この1チームに何かあれば一気に揺らぐリスクも抱えています。
食肉業者やエンジニアがいるチームが世界16位まで来た。その足元は、まだ盤石ではありません。
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